何も束縛されない自由の中にあるより、
制約されたシステムの中で目的を達成する方が
着地点が明確になる場合が多い。
美術表現においても同じようなことが言える。
神奈川県立近代美術館・葉山で開催中の
「ムルロ工房と20世紀の巨匠たち」というタイトルの展覧会を見て
その感をさらに強く持った。
版画制作には感性だけでは片付けられない
技術的な問題が大きく関わるのだが、
版画技法(技術)に精通しているアーティストはそれほど多くはない。
しかし、優れた版画工房の職人の助言と技術的な助けを借りて
作家が版表現に挑戦すれば、感性と技術が相まって
作り手の想像を超え、完成度の高い作品が生まれる。
版画制作には完成に至るまでのプロセスが
かなり複雑な工程を踏み、
その工程はシステマチックに進めなければいけない。
作家は気の向くままに制作を進めても決して上手くはいかない。
作家がやろうとしていることをよく汲み取り、
最善の技法を示し、作家がイメージする以上のものへと
導くのが優れた版画職人と言える。
今まで正直それほど興味が無かった
ジャン・デュビュッフェやジョアン・ミロの
ムルロ工房で作った版画作品がたまらなく魅力的だった。
彼らは版画の制約された技法の中で
とてもシンプルに仕事をしていた。
やろうとしていることが明快に表れた版画のマジックとも言える。
版画制作を日常的に行っている者にも
刺激的で、美しい展覧会であった。
前期を終え、作品の入れ替えもあるようなので
会期中にもう一度見たいと思う。
神奈川県立近代美術館・葉山